大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島地方裁判所 昭和45年(行ウ)8号 判決 1981年7月21日

広島県呉市西中央四丁目三番五号

原告

日野義行

右訴訟代理人弁護士

河合浩

広島県呉市公園通四丁目二番地

被告

呉税務署長

安原了

右指定代理人

有吉一郎

右同

高田資生

右同

吉川定登

右同

渡辺忠義

右同

益池勝

右当事者間の所得税更正処分取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告が昭和四四年四月一二日付でなした原告の、(1)昭和四〇年分所得税について総所得金額を金二三、五〇九、七四九円とした更正処分のうち金二二、五九五、八二七円を超える部分、(2)昭和四一年分所得税について総所得金額を金一一、七六七、八七六円とした更正処分のうち金一一、四四三、八七六円を超える部分及び(3)昭和四二年分所得税について総所得金額を金一七、三五二、四二二円とした更正処分のうち金一七、二二〇、四二二円を超える部分は、いずれもこれを取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。

事実

一  双方の申立

原告は、「被告が昭和四四年四月一二日付でなした原告の、(一) 昭和四〇年分所得税について総所得金額を金二三、五〇九、七四九円とした更正処分のうち金一、八一七、八六二円を超える部分、(二)昭和四一年分所得税について総所得金額を金一一、七六七、八七六円とした更正処分のうち金三、二一五、〇〇八円を超える部分及び(三)昭和四二年分所得税について総所得金額を金一七、三五二、四二二円とした更正処分のうち金一、五九七、〇三六円を超える部分は、いずれもこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

被告は、「原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

二  原告の請求原因

(一)  原告は、パチンコ店を営む者であるが、被告に対し昭和四〇年分ないし昭和四二年分の所得税について別表(一)記載のとおり確定申告したところ、被告は、昭和四四年四月一二日付で右各年分について別表(二)の総所得金額欄記載のとおり更正処分(以下、一括して本件各処分という。)を行ない、その頃その旨を原告に通知した。

(二)  そこで原告は、昭和四四年五月二日広島国税局長に対し本件各処分について審査請求をしたが、同局長は同年一二月二三日付でこれを棄却する旨の裁決をし、同裁決は同月二六日原告に送達された。

(三)  しかしながら、原告の昭和四〇年分ないし昭和四二年分の総所得金額はいずれも原告がした確定申告のとおりであるから、被告のした本件各処分のうち右確定申告額を超える部分は原告の所得を過大に認定した違法がある。

(四)  よって、原告は被告のした本件各処分のうち原告の確定申告による総所得金額を超える部分の取消を求める。

三  請求原因に対する被告の答弁及び主張

(一)  請求原因(一)及び(二)の事実は認める。同(三)は争う。

(二)  原告は、その遊技場経営による高額の収入金を記帳せず、多数の取引先金融機関を利用して多額の仮装名義預金を設け、その他各種の資産を購入するなどして所得の秘匿を図ったので、被告は、別表(三)ないし(五)記載のとおり資産増減法により原告の所得を計算し、本件各係争年分について別表(二)記載のとおり更正処分及び附帯税の賦課決定処分をしたものである。

したがって、被告のした本件各処分は適法である。

四  被告の主張に対する原告の答弁及び反論

(一)  (二)において反論するもの以外は、被告の主張事実を認める。

(二)1  昭和四〇年分について

(1) 有価証券分 二五〇、〇〇〇円

右は、原告が昭和四〇年度に取得した割引電信電話債券一五枚について、額面金額は合計五〇万円で、実際の購入価額はその半額二五万円であるのに、被告はこれを額面金額通りで購入したとして課税したものであるから、実際の購入価額を超える部分二五万円は、昭和四〇年分の所得額から控除されるべきである。

(2) 生活費分 一四四、〇〇〇円

右は、原告が昭和四〇年度に女中を雇っていないのに月額一二、〇〇〇円で女中を雇ったとして課税したものであるから、同年度分の右給与の支払いに相当する一四四、〇〇〇円は、同年分の所得額から控除されるべきである。

(3) 自宅建築費 一九、九二二円

右は、原告が自宅建築に関連して昭和四〇年度に、<1>上垣邦夫に支払った工事費が実際には一六三、四六八円であったのに一七五、〇〇〇円支払ったとして、<2>谷川電気店に配線工事費八、三九〇円を支払っていないのに支払ったとして、それぞれ課税したものであるから、<1>の差額一一、五三二円と<2>の八、三九〇円との合計一九、九二二円は、原告の昭和四〇年分の店主(建物)勘定に計上すべきではなく、右金額は同年分の所得額から控除されるべきである。

(4) 借入金支払い(大木与一)分 五〇万円

右は、原告の大木与一に対する帳簿上の架空支払いであるから、これを被告が昭和四〇年度に実際の支払いがあったとして課税したのは誤りであり、右金額は同年分の所得額から控除されるべきである。

(5) 架空支払い(永野昇)分 一〇〇万円

右は、別表(三)の資産の部の建物勘定に関するが、原告の永野昇に対する帳簿上の架空の支払いで、公表勘定から裏勘定に回したものである。すなわち、原告の妻八重子は、表勘定に余裕ができたのでその内金一〇〇円を裏勘定に回すため、昭和四〇年四月二八日、「額面一〇〇万円、振出人日野八重子、振出日右同日、支払銀行住友銀行呉支店」の小切手一通(以下本件小切手という)を振出し、永野昇に依頼して右小切手に同人名義の裏書(記名捺印)を得て、同銀行にある日野八重子の当座預金勘定(公表勘定の分)から永野昇に対する支払金のように装って一〇〇万円の払戻しを受け、これを同銀行同支店における別表(六)記載の三口の偽名預金とした(なお、同表のうち、金額四〇万円の分は同年五月一日午後三時以降に入金された。)したがって、実質上資産減少をきたしていないから、これを被告が昭和四〇年度に実際に支払いがあったとして課税したのは誤りで、右金額は同年分の所得額から控除されるべきである。

2  昭和四一年分について

(1) 有価証券分 一万円

右は、前記1の(1)と同様に、原告が昭和四一年度に取得した割引電信電話債券一枚について、額面金額は二万円で実際の購入価額がその半分一万円であるのに、被告はこれを額面金額通りで購入したとして課税したものであるから、実際の購入価額を超える部分一万円は、昭和四一年分の所得額から控除されるべきである。

(2) 生活費分 一四四、〇〇〇円

右は、前記1の(2)と同様に、原告が昭和四一年度に女中を雇っていないのに雇ったとして課税したものであるから、同年度分の右給与の支払いに相当する一四四、〇〇〇円は、同年分の所得額から控除されるべきである。

(3) 店主勘定(蘭、観音竹)分 一七万円

右は、原告が昭和四一年三月二二日に取得した蘭、観音竹の「大雪原」及び「大勲」について、実際の購入価額は「大雪原」は八万円、「大勲」は一万円であるのに、「大雪原」は一六万円、「大勲」は一〇万円で購入したとして課税したものであるから、右のそれぞれの差額合計一七万円は昭和四一年分の店主勘定に計上すべきではなく、右金額は同年分の所得額から控除されるべきである。

3  昭和四二年分について

生活費分 一三二、〇〇〇円

右は、前記1の(2)と同様に、原告が昭和四二年一月から一一月までの期間女中を雇っていないのに、月額一二、〇〇〇円で雇ったとして課税したものであるから、同年分の右給与の支払いに相当する一三二、〇〇〇円は、同年分の所得額から控除されるべきである。

五  原告の反論に対する被告の答弁

原告の反論(二)の1の(5)については、次のとおり争うが、その余は全て認める。

すなわち、原告主張の小切手が昭和四〇年四月三〇日永野昇によって現金で引出されているし、査察調査の際査察官の質問に対し、同人が右小切手は原告の同年中の建物の改造費の一部として受取ったと供述しているから、原告の主張は失当である。但し、別表(六)記載の三口の普通預金(うち、金額四〇万円の分は同年五月一日午後三時以降に入金された。)が存在していることは認める。

六  証拠関係

原告は、甲第一ないし第四号証を提出し、証人日野八重子、同永野昇の各証言を援用し、乙号各証の成立は認めると述べた。

被告は、乙第一号証の一ないし八、第二ないし第七号証、第八号証の一、二、第九号証を提出し、甲第一、二号証についてはその成立を、甲第三号証については原本の存在とその成立をそれぞれ認め、甲第四号証の成立は不知と述べた。

理由

一  請求原因(一)及び(二)の事実並びに原告の主張事実(事実摘示四の(二))のうち1(5)を除くその余の各事実は当事者間に争いがない。

二  ところで原告は、昭和四〇年中に訴外永野昇に対する一〇〇万円の架空支払があったとし、その方法として原告の妻八重子が公表勘定から裏勘定に回すべく額面一〇〇万円の小切手一通を振出し、これを永野に支払ったように装い一〇〇万円の払出しを受け、その金員を原告の偽名預金とした旨主張し、被告は右小切手金が永野に現実に支払われたことを前提として原告の所得額を算出しているので、架空支払の有無について検討する。

(一)  成立に争いない乙第一号証の二、三、七、証人日野八重子、同永野昇の証言によると、原告の妻八重子は原告から原告の経営するパチンコ店の経理事務一切を任されており、昭和四〇年四月二八日には額面一〇〇万円、振出人日野八重子、振出日同日、支払人住友銀行呉支店なる本件小切手(小切手番号K02962)を振出し、その小切手の裏面には永野の記名捺印がされていること、右小切手金の支払として同月三〇日八重子名義の当座預金口座から現金一〇〇万円が出金されていることが認められるから、特段の事情のない限り右小切手金一〇〇万円は永野に支払われたものと推認されるところ、成立に争いない乙第五号証、証人日野八重子、同永野昇の証言によると、永野は昭和三九年九月頃着工して昭和四〇年三月末には完成した呉市古川町所在の原告の自宅の増改築工事のうち基礎工事、左官工事を施工し、その後まもない同年四月頃には原告の経営する呉市中通り所在のパチンコ店「オアシス」の改築工事(店舗入口ホール工事、二階増築工事、炊事場改造工事)を約二八〇万円で請負い、その工事については同年四月中に所要の木材を購入し、乾燥させて準備し、同年五月には配線工事にとりかかり、同年六月頃から増改築工事にとりかかり、同年一二月頃には完成させたこと、その間八重子は永野に対し工事代金全額を支払っていることが認められるから、その工事代金の一部として右小切手金一〇〇万円が支払われたとみられる可能性が大である上、成立に争いない乙第九号証によると、永野は昭和四三年一〇月三一日広島国税局収税官吏木島正の質問に対し、右店舗の改築工事代金の一部として昭和四〇年四月二八日一〇〇万円を支払人を住友銀行とする小切手によって支払を受けた旨述べていることが認められるから、本件小切手に永野が裏書し小切手金が八重子の口座から支払われていること、当時永野が右店舗の増改築工事を請負っていたことと相まって本件小切手金一〇〇万円は現実に永野に対し支払われたものと認めるのが相当である。

(二)  これに対し原告は、本件小切手金一〇〇万円は住友銀行呉支店における原告の三口の偽名預金にされた旨主張し、成立に争いない乙第一号証の四ないし六、八、第七号証、第八号証の一、二によると、住友銀行呉支店の取引先係であった訴外正力久幸は原告の預金につき原告の依頼により偽名預金口座を多数設け、いわゆる裏勘定を設けており、原告の偽名預金口座のうちの一つである雨宮礼三名義の普通預金口座に昭和四〇年五月一日四五万円と四〇万円を、同月四日には一五万円をそれぞれ入金したことが認められる。ところでこれらの預金と本件小切手金との関連性について、証人日野八重子は、原告の当座預金に十分余裕があったので、そのうち一〇〇万円を裏預金に回すため本件小切手を振出し、原告方に出入りしていた永野に裏判を頼み住友銀行呉支店の行員である正力久幸に頼んで裏預金にした旨証言しているが、成立に争いない甲第一号証、乙第三号証によると、八重子は原告に対する所得税法違反被告事件における証言においては、本件小切手金を永野に支払っていない理由として永野に対し以前にそれだけのものを払っているからとか、払い過ぎになるからとか極めて曖昧な証言をしていることが認められ、本件訴訟における証言内容とも異なる上、前掲乙第一号証の七によると、原告の公表勘定である当座預金口座においては昭和四〇年四月三〇日に本件小切手金一〇〇万円が払出されたことによって二八一、二一五円の赤字となっていることが認められるから、証人日野八重子の右証言は到底措信することができない。また本件小切手金と前記偽名預金三口との関連について、前掲甲第一号証、乙第七号証によると、正力久幸は原告に対する前記被告事件において、永野が本件小切手金を受取っていないとすれば、前記三口の偽名預金は本件小切手金が入金されたものと思うという程度の証言をしているにとどまることが認められるから、乙第七号証をもって本件小切手金と前記三口の偽名預金とに関連性があると断ずることはできない。次に証人永野昇は、昭和四〇年四月末頃本件小切手に裏判を押したが、それは原告の事務所で八重子から帳簿の都合で払ったことにしてくれと頼まれたからで、小切手金は受け取っておらず、当時原告から受領すべき金はなかった旨証言しているが、前掲乙第五号証、成立に争いない乙第六号証によると、永野は原告に対する前記被告事件において、昭和四五年九月二一日本件小切手金を受領したかも知れないとか小切手金を受領したか否か覚えていないとも曖昧な証言をしていることが認められるし、それに刑事事件、本件訴訟における証言が本件小切手の振出当時から相当日時を経過した後の証言であることを考えると、証人永野昇の本件訴訟における前記証言部分はたやすく措信することができない。

しかして他に前記(一)の認定を覆すに足る証拠はない。

三  そこで、本件各更正処分は、別表(二)によると、(一)昭和四〇年分所得税について総所得金額二三、五〇九、七四九円から当事者間に争いのない金額合計九一三、九二二円を差し引いた二二、五九五、八二七円を超える部分、(二)昭和四一年分所得税について総所得金額一一、七六七、八七六円から当事者間に争いのない金額合計三二四、〇〇〇円を差し引いた金一一、四四三、八七六円を超える部分、(三)昭和四二年分所得税について総所得金額一七、三五二、四二二円から当時者間に争いのない金額一三二、〇〇〇円を差し引いた一七、二二〇、四二二円を超える部分につき、それぞれ原告の総所得金額を過大に認定した違法があるので取消を免れない。

四  よって原告の本訴請求は、被告のなした原告の昭和四〇年分ないし昭和四二年分の所得税の更正処分のうち、原告の総所得金額を過大に認定した部分の取消を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森川憲明 裁判官 大前和俊 裁判官 土生基和代)

別表(一)

<省略>

別表(二)

<省略>

別表(三) 貸借対照表 (昭和四〇年一二月三一日現在)

<省略>

別表(四) 貸借対照表 (昭和四一年一二月三一日現在)

<省略>

別表(五) 貸借対照表 (昭和四二年一二月三一日現在)

<省略>

別表(六)

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例